魚を食べる人は、認知症リスクが低い!

WHO(世界保健機構)によると、2015年時点で、世界中で4,680万人の人々が、認知症をもちながら生活しているとのことである。
そして、2050年には、1億3,150万人にまで増加するといわれている。(1)
日本では、2060年には、高齢者の33%にあたる11万人が認知症にかかると予想されている。(2)
しかしながら、現時点で認知症に対する有効な治療は存在せず、予防が最も重要なアプローチである。

ということで、今回は、魚の摂取が認知症の発症を減らすかどうかを検討した、この論文を読んでみた。
「Fish consumption and risk of incident dementia in elderly Japanese:
 The Ohsaki Cohort 2006 Study」

Br J Nutr. 2019 Sep 3:1-29.

過去の研究では、魚に含まれる様々な栄養素が、神経系や認知状態にベネフィットをもたらす可能性が示唆されている。(3; 4; 5; 6; 7; 8; 9; 10; 11)
特に、EPAやDHAといったオメガ3脂肪酸が、認知機能低下を予防するとされている。(3; 4)
その他、ビタミンA/カロチノイドやビタミンB12、ビタミンD、ビタミンE、セレニウム等が神経保護作用を持つとされている。

加えて、日常的に日本食や地中海食・DASH食を取ることが、認知症リスクの低下と相関したとの研究もある。(12; 13; 14)
これらの食生活は、魚の摂取量が多いため、そのことが認知症リスクの減少と関連するのではと推察されている。

研究のベースとなった母集団

  • 対象:宮城県大崎市在住の65歳以上の男女31,694名。
  • 調査方法:2006年12月1日~15日の間に実施された、食物頻度アンケートを使用して魚やその他の食物に関するデータを収集。2007年4月1日に観察を開始し、2012年12月30日に終了した。
  • 研究のフローチャートは下記の図の通り

食物頻度アンケートの詳細

魚と他の食品の摂取頻度をFFQ(food frequency questionnaire:食物頻度アンケート) を使って質問した。
FFQには、39の食品といくつかの飲み物が含まれていた。
各項目の詳細は以下の通りであった。

  • 魚:(1)生魚/醤油焼きした魚/焼き魚、(2)かまぼこ
  • 緑黄色野菜:青野菜・人参・カボチャ・トマト・キャベツ・レタス・白菜など5食品の合算として定義された
  • 果物:柑橘類・柑橘系以外の果物・フレッシュジュース
  • 各食品の頻度:ほとんど食べない/月1~2回/週1~2回/週3~4回/ほぼ毎日

ベースラインの患者背景は以下の通り

魚の摂取量を四分位に分け、Q1が魚の摂取量が最も少なく、Q4が最も多い

結果:認知症の予防のために、魚を摂取することは有効

魚の摂取量が最も少ないQ1を基準とすると、魚の摂取量が増えるに従い、認知症発症リスクが低下することがわかる。(下図参照)

以下、Discussion部分に記述のあった内容を要約する

魚の摂取量と認知症発症リスクの関連性を検討する為、65歳以上の日本人13,102名を5.7年間観察した結果、認知症の予防のために、魚を摂取する潜在的利益が示唆された。

この研究では、第一四分位から第三四分位での魚の摂取量による人口寄与割合(PAF)を計算している。
PAFは、5.6%。この数字は、全ての人が、第4四分位と同じ量を摂取すると、認知症の5.6%が予防されることを示唆しており、これは全世界で約260万人の認知症が予防されることを意味する。
認知症から260万人を予防することは、QOL・介護者の負担・医療費・長期ケアの点からも、社会に大きなベネフィットをもたらすものと考えられる。

選択バイアスの排除のため、魚の摂取量データを得られずに、主要解析から除外された1,300名の欠測値を補完して14,402名で再解析しても、結果を大きく左右するものではなかった。
つまり、この研究結果に選択バイアスの影響は少なかったと考えられる。

野菜や果物などの食べ物の因子を調整して解析すると、インパクトは、やや弱まった。
過去の研究によると(36;37)、葉酸やビタミンE、カロテノイドの豊富な葉物野菜は、認知症や認知機能低下に保護的な効果を持つとされている。
果物に関しても、柑橘系果物の摂取が、認知症の発症リスクを下げるとの報告がある。(38)
魚の摂取量が多い患者は、果物や野菜も多く取る為、そのことが結果に影響するのかもしれない。

層別解析では、魚の摂取量と認知症発症の関連は、各交絡因子により違いはなかったが、睡眠時間が1日7~8時間と1日9時間以上で、違いが見られた。
睡眠時間が長いと、認知症につながりやすいといった研究結果もあるが、その機序は不明である。(39; 40)

様々な過去の研究を紐解いてみると、観察期間の長短により、結果にばらつきがみられる。(4;15;16;17)
観察期間が長いと、治療の恩恵に授かる割合が高くなる。
つまり、降圧療法・抗血栓療法・脂質低下療法等によって認知症のリスクが下げられ、魚の摂取の影響が薄まってしまう。
ただし、本研究では、観察中の最初の2年で発症した認知症を除外し、ベースラインで認知機能が良い患者だけを選択したので、試験期間の影響を極力排除できたものと考えられる。

さらに、過去の研究では、年齢・性別・BMI・カロリー摂取などの交絡因子が考慮されている。
加えて、それらの研究は、西洋諸国で行われており、魚が油で揚げて調理され、生や蒸したり、茹でたり、煮込んだり、焼いたりして摂取する日本とは魚の調理方法が異なっている。
たっぷりの油で揚げた魚は、オメガ3脂肪酸が有意に減少するといったエビデンスもある。(42)
このようなことから、欧米で行われた研究結果を、日本人に当てはめるには、注意が必要である。

<本研究の長所>

  • 参加者の数が過去の研究と比較し、圧倒的に多い点(13,102名 vs 488~8,805名)
  • 数多くの共変量で補正した点
  • フォローアップ率が99.1%と非常に高い点
  • 魚の摂取量の範囲が、著しく広い点

<本研究の限界点>

  • 魚の摂取によりどのようなメカニズムで認知症が予防できたかは不明
  • 観察期間中に魚の摂取量が変化した患者がいたとしても、その影響は不明
  • 食事の具体的な質までは把握できてないので、何か別の因子が絡んだ可能性を否定できない点
  • より長期の試験が求められる点
  • 23,091名のうち6,333名が同意書撤回により除外されたが、これらの人達は、健康状態が悪かったり、生活習慣が乱れている傾向があったので、これらが研究に組み入れられていたら、結果は異なっていたかもしれない。
  • 研究に組み入れられた参加者は、障害のない65歳以上の高齢者だったため、この研究で得られた知見は、全ての日本人に一般化することはできないかもしれない。

結論
健常高齢者において、魚の摂取量が多いと、認知症発症リスクが低下することが確認された。
これらの結果は、魚を食べる習慣が認知症予防に有効であることを示唆している。

Reference(記事中の( )内の数字に対応した参考論文を記します。)

1. International AsD (2015) World Alzheimer Report 2015: The Global Impact of Dementia. World Alzheimer Reports.
2. Japan COGo (2017) Situation on Aging: Current State and Trends on the Elderly and their Environment. Annual
Report on the Aging Society.
3. Morris MC, Evans DA, Bienias JL et al. (2003) Consumption of fish and n-3 fatty acids and risk of incident Alzheimer disease. Archives of neurology 60, 940-946.
4. Schaefer EJ, Bongard V, Beiser AS et al. (2006) Plasma phosphatidylcholine docosahexaenoic acid content and risk of dementia and Alzheimer disease: the Framingham Heart Study. Archives of neurology 63, 1545-1550.
5. Ono K, Yamada M (2012) Vitamin A and Alzheimer’s disease. Geriatrics & gerontology international 12, 180-188.
6. Lee HP, Casadesus G, Zhu X et al. (2009) All-trans retinoic acid as a novel therapeutic strategy for Alzheimer’s disease. Expert review of neurotherapeutics 9, 1615-1621.
7. Moore E, Mander A, Ames D et al. (2012) Cognitive impairment and vitamin B12: a review. International psychogeriatrics 24, 541-556.
8. Whyte EM, Mulsant BH, Butters MA et al. (2002) Cognitive and behavioral correlates of low vitamin B12 levels in elderly patients with progressive dementia. The American journal of geriatric psychiatry : official journal of the American Association for Geriatric Psychiatry 10, 321-327.
9. Masoumi A, Goldenson B, Ghirmai S et al. (2009) 1alpha,25-dihydroxyvitamin D3 interacts with curcuminoids to stimulate amyloid-beta clearance by macrophages of Alzheimer’s disease patients. Journal of Alzheimer’s disease : JAD 17, 703-717.
10. La Fata G, Weber P, Mohajeri MH (2014) Effects of vitamin E on cognitive performance during ageing and in Alzheimer’s disease. Nutrients 6, 5453-5472.
11. Ellwanger JH, Franke SI, Bordin DL et al. (2016) Biological functions of selenium and its potential influence on Parkinson’s disease. Anais da Academia Brasileira de Ciencias 88, 1655-1674.
12. Tomata Y, Sugiyama K, Kaiho Y et al. (2016) Dietary Patterns and Incident Dementia in Elderly Japanese: The Ohsaki Cohort 2006 Study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 71, 1322-1328.
13. Petersson SD, Philippou E (2016) Mediterranean Diet, Cognitive Function, and Dementia: A Systematic Review of the Evidence. Advances in nutrition (Bethesda, Md) 7, 889-904.
14. (2019) MIND not Mediterranean diet related to 12-year incidence of cognitive impairment in an Australian longitudinal cohort study. Alzheimer’s & Dementia 15, 581 – 589.
16. Kalmijn S, Launer LJ, Ott A et al. (1997) Dietary fat intake and the risk of incident dementia in the Rotterdam Study. Annals of neurology 42, 776-782.
36. Morris MC (2012) Nutritional determinants of cognitive aging and dementia. Proc Nutr Soc 71, 1-13.
37. Morris MC, Booth S, Dawson-Hughes B et al. (2015) Relations to Cognitive Change with Age of Micronutrients Found in Green Leafy Vegetables. Faseb J 29.
38. Zhang S, Tomata Y, Sugiyama K et al. (2017) Citrus consumption and incident dementia in elderly Japanese: the Ohsaki Cohort 2006 Study. Br J Nutr 117, 1174-1180.
39. Lu Y, Sugawara Y, Zhang S et al. (2018) Changes in sleep duration and the risk of incident dementia in the elderly Japanese: the Ohsaki Cohort 2006 Study. Sleep 41.
40. Benito-Leon J, Bermejo-Pareja F, Vega S et al. (2009) Total daily sleep duration and the risk of dementia: a prospective population-based study. Eur J Neurol 16, 990-997.
42. Candela M, Astiasarán I, Bello J (1998) Deep-Fat Frying Modifies High-Fat Fish Lipid Fraction. Journal of Agricultural and Food Chemistry 46, 2793-2796.

ムンディアル
  • ムンディアル
  • 職業:会社員
    趣味:サッカー(やるのも見るのも)、野球観戦(主に埼玉西武ライオンズ)、F1グランプリ、お城、時々下手なピアノを弾く

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